2022/11/29 10:53

「友達が、サンタクロースなんていないんだって言います。サンタクロースって、ほんとうにいるんでしょうか?」 
アメリカに住む8歳の少女のこんな質問に、記者が新聞の社説で答えます。
―――サンタクロースを見た人はいない。でもそれは、サンタクロースがいないという証明にはならない。なぜなら、この世界で一番確かなことはだれの目にも見えないものだから―――


 これは1897年の実話です。あまりにも有名なエピソードが紹介されたこの本を、毎年今の時期になると目にし、つくづくいい本だなあと思う。えんじ色の布貼りの装丁。本文を囲むのはその赤に対比するビロード色の枠。東逸子さんの幻想的なモノクロのイラスト。手になじむサイズ感。全体の成り立ちが美しいその本を手に、あるエピソードを思い出し、クリスマスの華やかなムードとは逆のノスタルジックな気持ちに包まれるのです。


 

 1970年代、中学生だったある日のこと。国語の教師から配られた一枚のプリントには冒頭の新聞の社説。もちろんパソコンやワープロなんか無い時代なので、彼の手書きのそれは文字が本当に汚なかった。今思えば実直さがにじみ出ている彼らしい味のある文字だったのではないかと想像するのだけれど、不器用がセーターを着て歩いている(なぜか、毛玉のついた茶系のまだらのセーターのイメージ)ような、猫背の教師。宮沢賢治が好きすぎて、「永訣の朝」の授業がずーっと続いて、今も、宮沢賢治と聞くと、彼の声が聞こえてくるよう。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」と。私たちが卒業した後、心の調子を崩し休職したと聞いた。それを聞いたとき、あーありそうだなと思ったのは、いつも何かおどおどしているような彼の様子から、傷つきやすそうなピュアな内面を感じていたからなのだと思う。教科書にも載っていなかったアメリカの新聞の社説。当時すでに話題になっていたのかもしれないし、そうでないかもしれない。どちらにしても、彼の心のアンテナがキャッチし、生徒たちに伝えたいと思い、プリントを作ったというのは確かなこと。でもそんな彼の純粋な気持ちは、残念ながら思春期、反抗期真っただ中の私には届かなかった。また感動の押し売りかと斜に構え、ふん、と鼻先で笑っていたように思う。今なら痛いほど彼の気持ちがわかるのに。まさに若気の至りというほかない。

と、ここまで書いて、うるうるしてきた。名前も覚えていないけど。先生、元気ですか?

45年も前のことなので、記憶違いがあるかもしれません。同級生に聞いてみたら事実は全く違うかも。

2022年12月                                                                                                                                                                                       

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